製薬工場の前庭の中央に、一本の小さな木(ハナミズキ)が生えていた。製薬工場では防虫対策のため、普通は植物を遠ざけるのだが、この木は従業員に可愛がられてきた。工場内は衛生管理のため無機質なクリーンルームで会話もできない環境であるため、その木は数少ない癒しの存在だったのだ。この庭に食堂棟を計画するにあたってその木を切るのは寂しい。そこで木を別の場所に移植し、元の場所ではその木が大きく成長した姿を想像した。その大きな木の下に、従業員を抱きかかえ、工場を見守るような形での計画ができないかと考えたのである。そして働く人々の五感を開放し、優しい手触りや木の香り、木漏れ日や外の桜並木も臨む気持ちの良い場所として、人が集い会話の弾む場を目指した。
vol.6
大きな木の下で
ミヤリサン製薬食堂棟