うろうろと探検したくなるワークプレイス
人と人が面と向かって会話をする機会は、 ITの普及により徐々に少なくなってきている。そこで我々設計者は日立製作所とともに、改めてコミュニケーションの大事さに注目し、自然と出会いが生まれるような場づくりを行った。 QoL(クオリティ・オブ・ライフ)を向上させることに継続的に取り組んできた事業主だからこそ実現できた、心地よい研究空間である。
室内には、視界を遮る壁はほとんどなく、開放的な空間としている。建物の中央にはすべての階をつなぐ吹き抜けを設け、ゆるやかで幅の広い階段を設けた。そこでは、ちょうど立ち止まりたい場所にイスとテーブルが置かれていたり、良い香りのコーヒーを飲めるキッチンカウンターがあったりと、自然とうろうろとしたくなる仕掛けがちりばめられている。様々な分野の研究者やデザイナーが、ちょっとした立ち話から気付きを得て新しい発見を生み出すことのできる、仕事が楽しくなるようなワークプレイスを目指した。
歴史ある豊かな森とともに
床に落ちる木漏れ日、窓から見える景色、日々同じものはなく自然の移ろいを感じることができる。この研究所の敷地である22haもの広大な武蔵野の森は、創業社長の"よい立ち木は切らずに、よけて建てよ"の言葉を受けて、今もなお2万7千本の樹木が残り、野川の源流となる清水も湧いている。
この創業から培った豊かな環境を大切に受け継ぐため、新しい建物はもともと建っていた古い建物と同じ位置に創った。これにより樹木を極力伐採しないで済む。それにより建物も環境の恵みを十二分に受けることのできる共生関係をつくることを目指した。建物を1つの大きな塊とするのではなく、ボリュームを複数に分け、ずらしてつなげ、武蔵野の森をボリュームの狭間に取り込む構成とした。さらに、自然換気窓や吹き抜けを活用した換気システム、太陽光発電など森の光や風の力を借りた、エコロジーなシステムにより心地よい環境を生み出している。