ときを創る
北の厳しい大地の中で感じる川の流れ、空気の変化、草花の芽吹き。 20年の時を越え、「六花の森」は次の季節をじっと待つかのように静かに佇む。 「六花の森」は、北海道中札内村の広大な敷地に計画された、お菓子工場、美術館群を取り囲むようにせせらぎ、湿地、河畔林を再生したランドスケーププロジェクトである。北海道を代表する企業であるクライアントの「建物・施設は、自分たちのものではなく、後世に残す社会資本である」との想いを軸に、地域に根差し、 新たな文化、新たな風景を生み出すべく1997年より計画を進め、調査開始から約10年の歳月を掛けて、2007年に、約10haもの広大な森「六花の森」が完成 した。その後も各種生物調査などを実施し、完成後、10年を迎えている。 クライアントの未来を見据えた想いを、設計者が汲み取り、この場所にしかない豊かな風景をつくり上げた。一時の風景は、時をかけてはぐくまれた風景。すべての想いは「今に」、今ある想いは「未来」に引き継がれ、想いを馳せる気持ちが、 この北の大地の空気を醸成させていく。我々は、モノづくりを通じ、ときを創っていった。
設計者は、この場所にしかない風景を生み出すべく、何度も現地を訪れ、自ら荒地や雪原に入り込み、周辺の植生や地形の歴史に至るまで徹底的に調べ上げた。敷地周辺を含めた自然環境の入念な調査、地形図の分析をもとに、敷地内の河道跡、伏流水といった環境資源や河岸段丘の特徴を抽出した。抽出されたこの土地固有の要素と微地形を手がかりとして、せせらぎや湿地を再生し、陸域 から水域までの多様な植生を可能にする新たな地形をつくり出したのである。