ボーダーレスな社会が急速に進んでいく今、これからの建築が進むべき道はどのようにあるべきか。アートと建築の境界といった話題から、未来の都市空間についての話題まで、「境界」をテーマに美術評論家・森美術館館長 南條史生氏と共に考える。
1999年に大林組本社が品川インターシティに移転した際、南條氏監修のもと世界各国のアーティストによる作品が「建築空間とアートの融合」をコンセプトに集められた。これらのアート作品は建築と融合し、新たなコミュニケーションの場を創り出している
アートと建築の〝融合〟は多様性の追及から生まれる
茅岡|我々は建築をつくるときに建築と都市との「境界」を意識します。南條さんが手掛けられた品川インターシティ大林組本社のアート展示を見ていると、建築とアートの境界が一体どこにあるのかわからなくなります。たとえばロビーの草間彌生※1の『無限の網』は、アートでありながら間仕切りとして建築的な機能をもっていますし、西川勝人の『三日月階段』は、階段としての機能をもちつつ彫刻でもある。そこでは、アートと建築の境界を意識的に曖昧にされているように感じます。南條さんはこれまでにも数々のアートの展示に携わられていますが、アートと建築、アートと都市の境界をどのように意識されているのでしょうか?
南條|境界を曖昧にしようとしたのではなく、建築との「融合」を考えたのです。空間を活かしながら、その空間に合った作品をはめ込んでいく感じです。そういう方向性の方が、コンテクストを切り離された**ホワイトキューブ**※2 での展示より面白いと いう感覚があります。
※1 草間彌生:日本の芸術家。長野県松本市生まれ。幼い頃から悩まされていた幻覚や幻聴から逃れるために、それらの幻覚・幻聴を絵にしはじめた。1957年に渡米すると絵画や立体作品の制作だけで はなくハプニングと称される過激なパフォーマンスを実行し、1960年代には「前衛の女王」の異名をとった。
※2 ホワイトキューブ:鑑賞者の注意を作品だけに集中させるため、展示空間からいっさいの 装飾的要素を排除したニュートラルな空間。